高価格ホームの真価 引き算で選ぶ終の棲家~百合子さんの場合~
当事務所では老人ホーム選びのサポート事業を展開しています。
全国的にもかなり珍しい、お客様から直接相談料をいただくことで、ホーム側からは一切の紹介料を受け取らないスタイルを貫いています。
特定の施設に偏ることなく、100パーセントお客様の味方となりアドバイスを届けること。それが私の信条です。
そんな私の元に相談に来られた、百合子さん(仮名)という女性。
これまでに何件もの老人ホームにご一緒している方です。
※ご本人より「同じように迷われている方の参考になれば」と快く公表の許可をいただきました。
10件以上の見学を経て辿り着いた「特徴も欠点もない」という価値
百合子さんは、いつも背筋がすっと伸び、季節に合わせた色使いの服をさらりと着こなす、非常にセンスの良い女性です。
これまでにお連れした老人ホームは、それぞれにすばらしい特徴があり、百合子さんは眺望の素晴らしさに目を輝かせたり、ある時はスタッフの熱意に感心され、一軒一軒のメリットとデメリットを丁寧に確認しながら、二人三脚で歩んできました。
先日、ある老人ホームを見学した帰り道のことです。
最寄り駅へと続く並木道を歩きながら、百合子さんがふと足を止めてこうおっしゃいました。
「佐々木さん。今日のホーム、なんだか特徴がないわね」
私は一瞬、緊張しました。彼女の期待に応えられなかったのではないかと不安がよぎったのです。ところが、私の心配をよそに、百合子さんは柔らかく続けられました。
「……でもね、欠点もないのよ。それがいいなと思ったわ」
今回見学した老人ホームは、高価格帯の老人ホームですが、見た目でわかる豪華さは控えめです。
ロビーにシャンデリアがあるわけでも、重厚なソファが並んでいるわけでもありません。共有スペースは清潔で明るく、ごくシンプルな設え。
お食事も、炊き立てご飯と、季節のおかずが並ぶ献立です。
これまで見てきた高価格帯の老人ホームは、どこも素晴らしい「特色」を打ち出していました。
ホテルのような中庭、温泉、充実した医療設備…。
それらは間違いなく魅力的な価値ですが、百合子さんにとっては、「それは素晴らしいけれど、マイナス面も目に付く」「非日常」に感じられていたのかもしれません。

終の棲家は「非日常」ではなく「日常」の延長線上にある
「私、普段の生活はシンプルなの」 それが彼女の口癖です。
実際、何度かお邪魔した彼女のご自宅は、物が少なく、これといったブランド品は見当たりません。
自分にとって本当に心地よいものだけを身の回りに置く。
見た目は華やかな雰囲気をお持ちですが、暮らしはシンプルなのです。
老人ホームという場所は、特別な一日を過ごすためのリゾートホテルではありません。朝起きて、顔を洗い、ご飯を食べ、夜眠る。そんな当たり前の時間が365日続く、生活の拠点です。
百合子さんは、数多くのホームを見る中で、自分が求めているのは「特別な何か」ではなく、心に引っ掛かりのない「飾らない日常」なのだと気づかれたのでしょう。
そして「眺望は素晴らしいけれど、最寄駅からは遠い」や「お食事はおいしいけれど、広すぎるレストランは落ち着かない」といった欠点が見当たらないというのも、生活をするには大切なポイントです。
本当に必要なことを見極める力
今回の老人ホームの特徴を挙げるなら、交通の便が非常に良く、百合子さんが大切にされている趣味の活動を続けやすい立地であることです。
たまにですが、「交通の便がよくて、今の自宅から近くて、お食事がおいしくて、お部屋が広くて、スタッフの数が多くて…」と、理想の条件をすべて満たそうとするお客様がおられますが、かえって迷路に入ってしまうこともあります。
しかし百合子さんの様に、自分の人生にとって本当に必要な条件を見極めることができると、良いめぐり合わせが訪れます。
(ちなみに百合子さんは、狭いお部屋、縁のないエリアOKです)
彼女の鋭い審美眼が、そのめぐり合わせを引き寄せたのだと思うのですが、「佐々木さん、それはね、いくつも見学をしたから見えてきたことなの。探し始めたころはわからなかったものよ」と、謙遜されていました。
後日、百合子さんから届いたLINEには、こう綴られていました。
「今までで一番すーっと気持ちに入ってきたホームです」

何か突出した魅力に惹かれて一目惚れの様にして決める方もいれば、空気のように自然で、自分がその中にいても違和感がないことを理由に決める方も。
老人ホーム選びは、まさに十人十色です。
私もまた一つ、大切なことを教えていただいた気がします。
正解はパンフレットの中にあるのではなく、その方の歩んできた人生の延長線上に存在するのだと実感した一日でした。